「悪党ってさ、一人でも悪党?」
「悪党=悪人。一人についても大勢についても言います。」
「辞書から引いて来たみたいな答えをありがとう。」
「辞書から引いて来たんですよ。新明解国語辞典第四版。」
「意外だな。広辞苑から引いてくるかと思ってた。」
「そっちですか・・・広辞苑は重たいんですよ。」
「牙琉くらいにもなれば、広辞苑くらい浮かべられそうな気がする。」
「くらいにもって一体私はあなたの中でどう定義されているんでしょうかね。」
「君が言うからには“親友”だろ?牙琉。」
「それは私の中のあなたの定義でしょう?一応。」
「じゃあ“親友”。」
「じゃあってなんですか。」
「とりあえずってことかな?」
「≪一応≫と≪とりあえず≫とは、素晴らしき友愛です。」
「友情でなくて友愛ってところがらしいちゃららしいけど、どうかな。」
「友人甲斐がない人ですね。」
食事を奢って貰っていながらあくまで対等と言うスタンスの男に。
右手を額にあて厭きれたと首を振る。
「【友愛】知人に対しては献身的な愛をささげ、見知らぬ他人に対しても
必要な愛を惜しまないこと。だってさ。」
だとしら、僕達二人の関係は【友愛】かな?
「では後者の方ですか?」
「君がそう定義するならそうだね。」
既に己の中で答えを出していながらまるで私が選ぶように誘う。
眼前の“親友”と言う男が持つ銀のフォークで行儀悪くも突かれる、
溶け切った赤ワインのコンポートに浮かぶ、洋梨は。
無数の穴が開き、溶けたバニラアイスに覆われる。
私は酔っていたのだ。
でなければ、意味のない選択などしなかった。
「今日の依頼人は私の親友です。助けてやりたいのですよ・・・なんとしても。」
選ばれなどしないとわかっていたと言うのに、私は。
どうしようもなく。
悪党
(blackguard n.)
市場へ出す箱づめいちごと同じで、
人目を引くように並べてたもろもろの素質を、
つまり、上等な奴が一番上に並べてあるのを、
反対の底のほうから開けてしまった男。
裏返しにした紳士。
CAST
紺の弁護士
青いピアニスト