前を行く男の背中は猫のように少し弧を描く。
毎朝開く新聞に取り上げられた一面は覆い隠すように芸能面を持ち上げるが
隅に追いやられた記事では年々減少を見せる人口がその一途を辿るであろうことを裏付ける。
事務所で休憩時間中にニュースを見ていると見飽きるほどに流れてくる
情報は、その大半が好ましくないニュースだ。
チャンネルを変えれば同じニュース番組であっても流行やスポーツ情報を伝える
ものがあるが興味はなく、BGMであるかのように流しながら資料に手を伸ばす。
痛ましい犠牲者が呼び上げられると一瞬仕事が手につかなくなる。
偽善であるなと思いながら、痛ましいですね、と目新しくもないのに
呟く新入りの弁護士に、そうですね、と返していたことが浮かび笑ってしまった。
遠くの自らと面識の無い者に対しては軋むというのに
身近で親しくしているあの男に対しては苛まれることがない。
それどころか安らぎを感じて。
(あなたは今、辛いのですか。)
自然とほころぶ口元はさぞかし優しく歪められるのだろう。
すれ違いざまに感じる視線からわかる自分の表情に充実する満足を覚えさする。
ペタリ、ペタリと間抜けな音を立てて石畳を鳴らす靴底も嘗てはコツ、コツと
硬質的な音を立てて裁きの庭に足を踏み入れていた。
パーカーに包まれた背中は彼の正しさを象徴するような青い背広で包まれ
真っ直ぐに伸ばされていた、これからに向かって。
「キミといると落ち着くね。」
やわらかく、振り向かれもせずに囁かれた声はあたたかく。
振り向かれた表情は見ずとも同じだった。