「悪いことって自覚してやってしまうのと、自覚せずに悪いことをやってしまうこと。
どっちが悪いと思う。」
「自覚してるって悪いことだってわかっている状態で、
自覚していないって状態は悪いことだとわからないことですよね。」
「うん。」
「悪いことならなんでやるんでしょうか?
悪いってなんでわからないんでしょうか?」
「一度に二個の質問はいけないね。」
「一つずつ訊きます。わかっていてなんでやるんですか?」
「君は弁護士だろ?オドロキくん。」
「成歩堂さんも弁護士でしたよね?」
「元は元さ。今はしがないピアノの弾けないピアニスト。そうだろ?」
「そうですね。」
「・・・・・・・・そう、だね。」
「・・・・悪いってなんでわからないんですか?」
「今のきみがそのれ・・・・・・・・さぁなんだろうね?」
「わかっていないのになんで訊くんですか?」
「わかっていないから訊くんだよ。」
「あの・・・・。」
「なんだい?」
「悪いって少しでも思ってますか?」
「確かに意地の悪い質問だったね。いい気味だけど。」
「 へぇ・・・・だったらやめて下さいよ。」
「オドロキくんも気になったんじゃないかな?」
「まあ、そうですけど。」
「だったら有意義だよ。悪いことじゃないさ。
ところで、現段階で君はどっちだい?」
「成歩堂さんこそ、結局どうなんですか?」
「それは・・・・ぼくの答えさ。きみの答えじゃない。」
「参考にならないってことですか?」
「参考になる、ならないじゃなくて。しない方がいいってことさ。
関係ないよ。」
「だとしたら成歩堂さんにとってもオレの答えは関係ないんじゃないんですか?」
「関係なんてどうでも。聞きたいから訊いてる・・・・わかるだろ?」
「どうでも良ければ。聞いてもと尋ねても・・・・道理ですよね?」
「・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・ちょっとさ、最近イイ性格になったよね。オドロキくんも。」
「なんででしょうね。成歩堂さん。朱に交われば赤くなるそうですよ。」
「元々君は赤いんじゃないの。」
「りんごとかみかんに喩えちゃ悪いじゃないですか。」
「成長の促進、だよ。」
「行くとこまで行ったら、有害じゃないですか。それ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
「さすが熱血弁護士と言ったところかな・・・・アレは教師だけど。」
「やだな、笑顔で言わないでくださいよ。・・・・プロのギャンブラーらしいですけど。」
悪人
(malefactor n.)
人類を進歩させて行く最も重要な要因。
CAST
青いピアニスト
赤い弁護士
「悪党ってさ、一人でも悪党?」
「悪党=悪人。一人についても大勢についても言います。」
「辞書から引いて来たみたいな答えをありがとう。」
「辞書から引いて来たんですよ。新明解国語辞典第四版。」
「意外だな。広辞苑から引いてくるかと思ってた。」
「そっちですか・・・広辞苑は重たいんですよ。」
「牙琉くらいにもなれば、広辞苑くらい浮かべられそうな気がする。」
「くらいにもって一体私はあなたの中でどう定義されているんでしょうかね。」
「君が言うからには“親友”だろ?牙琉。」
「それは私の中のあなたの定義でしょう?一応。」
「じゃあ“親友”。」
「じゃあってなんですか。」
「とりあえずってことかな?」
「≪一応≫と≪とりあえず≫とは、素晴らしき友愛です。」
「友情でなくて友愛ってところがらしいちゃららしいけど、どうかな。」
「友人甲斐がない人ですね。」
食事を奢って貰っていながらあくまで対等と言うスタンスの男に。
右手を額にあて厭きれたと首を振る。
「【友愛】知人に対しては献身的な愛をささげ、見知らぬ他人に対しても
必要な愛を惜しまないこと。だってさ。」
だとしら、僕達二人の関係は【友愛】かな?
「では後者の方ですか?」
「君がそう定義するならそうだね。」
既に己の中で答えを出していながらまるで私が選ぶように誘う。
眼前の“親友”と言う男が持つ銀のフォークで行儀悪くも突かれる、
溶け切った赤ワインのコンポートに浮かぶ、洋梨は。
無数の穴が開き、溶けたバニラアイスに覆われる。
私は酔っていたのだ。
でなければ、意味のない選択などしなかった。
「今日の依頼人は私の親友です。助けてやりたいのですよ・・・なんとしても。」
選ばれなどしないとわかっていたと言うのに、私は。
どうしようもなく。
悪党
(blackguard n.)
市場へ出す箱づめいちごと同じで、
人目を引くように並べてたもろもろの素質を、
つまり、上等な奴が一番上に並べてあるのを、
反対の底のほうから開けてしまった男。
裏返しにした紳士。
CAST
紺の弁護士
青いピアニスト
赤ん坊
(babe or baby n.)
年齢も性別も身分もにわかには定めがたい、
不恰好な生き物で、それ自身は何の情緒も感情も
解しないくせに、他の人びとの心に激しい愛憎の念を呼び起こさない
ではおかない点がもっぱら注意を惹く。
赤ん坊で有名なのが昔からいくたりか出ている。
たとえば、幼いモーセがその一人だが、モーセに先立つ七百年前のエジプトの
祭司たちが*オシリスは、子供のころ、水に浮かぶ蓮の葉に託されたおかげで
命を失わずにすんだ、という愚にもつかない話を作り上げたのは、
疑いもなく、幼いモーセの葦にまつわる*冒険からヒントを得たにちがいない。
* 古代エジプトの主神の一人。
* 「出エジプト記」第二章最初の数節に言及。
CAST
青いピアニスト
赤い弁護士
小さな魔術師
「国と郷土を愛する心か。」
「教育基本法がどうかしたんですか、成歩堂。」
「平成18年12月15日第165回臨時国会にて成立、同年12月22日公布・施行か、
改正されてたんだ。」
「仮にも元弁護士が言っていい言葉じゃありませんよ。」
「うーん、実感がなくてさ。だから君の弟くんも飛び級が楽だったんだっけ?」
「義務教育の制限年度がなくなりましたからね。」
「当時は結構改正するか、改正しないかでもめたらしいよ。」
「そうですね、なんでも。最初あなたが言ったことが一番もめたんです。」
「でも実感ないけど。」
「・・・税金を納めていないからじゃないですか?」
「たまに、が抜けてるよ、牙琉先生。」
消費税が上がる方がもめてほしいと言う真摯なニット帽の男を願いを、
三大義務以前だ、と法廷一クールな弁護士ははねのけた。
愛国心
(patriotism n.)
自分の名声を明るく輝かしいものにしたい野心を持った者が、
たいまつを近づけると、じきに燃え出す可燃性の屑物。
CASAT
紺の弁護士
青いピアニスト