きゅっきゅっきゅつきゅつ
真新しいホワイトボードに黒いマジックと重要なポイントは赤、
ではなく青で書き込まれた化学式や図はしっかりと書き込まれていて
文系だったと言うことを疑いたくなる。
「このようにカルシウムは一般的に知られているような骨や歯を形成、
維持させていくだけでなくさまざまな効用があるんだよ。
体内のカルシウムの比率は骨や歯で99パーセント。
ヒドロキシアパタイト(Ca10(PO4)6(OH)2)の形で存在、
残りの1パーセントは細胞内に0.9パーセント分布、
0.1パーセント(約1g)は血中に存在し、循環している。
たかだか1パーセントだけど、まさしくされど1パーセントで
カラダの筋肉や心臓の筋肉を収縮させてカラダを動かすにも必要だし、
神経興奮性やホルモンの分泌の活性化、酸素活性の変化、
各種細胞機能の調節因子として、生態機能及びその調節の他、
血液の凝固作用にも大切な不可欠栄養素なんだ。
さて、ここまででなにか質問はあるかい?
オドロキくん。」
マジックをもてあそびながらどこからか調達した白衣とフレームの細い
眼鏡をいつものだるだるな服装に追加した格好はそれほど
おかしくない、むしろ意外に似合っている。
言葉遣いも問題なく、教壇に立てそうな滑らかで淀みない説明は
響くカツゼツの良い声は聞き取りやすくて向いていそうだ。
しかし。
「あの、なんのつもりなんですか?成歩堂さん。」
彼は現在進行形でピアノの弾けないピアニストなんだから。
「一言で言うとぼくの善意をわかってほしくてね。
決して他意、特に悪意はないんだからさ。」
出発点となったカルシウムせんべえはオレに渡されたもののはずなのに
自分であけて教卓の上にぼろぼろと食べこぼしが目立つ。
苛立ちのことを気遣ってと言うか茶化してこの不可欠栄養素たっぷり
小魚粉末入りせんべえを渡したならまだよかった。
このヒトはその点について、自分が主に出発点であると言うことについての
自責の念はないのかと、ヒトの可能性を信じたくなる。
同時に信じられなくもなるけれども、触れないことにしよう。
そうじゃないとやってけないような気がする。
「えーと、じゃあ続けるよ。
カルシウム不足からのイライラ。
栄養補助食品でよく見かける謳[うた]い文句
『血液中のカルシウム濃度が不足すると精神不安定に陥る』については
さっき基礎として話した0.1パーセントのカルシウムは血清カルシウム
とも言ってね。
その内の約45%はアルブミンなどの蛋白と結合して、
残りの約45%が遊離イオン化カルシウムとなるんだ。
この血清カルシウムの濃度は常に陸上生物はこの低下に悩まされている
(これは高濃度のカルシウムを含む海水中に生息する水生動物は
逆に濃度を低下させる為のカルシトニン[CT]があるくらいだよ)。
ぼくたちは内分泌せんの喉下にあたりにある上皮小体(副甲状腺)が
塩類の代謝を調節し、血清カルシウムを上昇させる
副甲状腺ホルモン(PTH)や活性型ビタミンDである1,25水酸化ビタミンD
(1,25(OH)2D)とかがカルシウムの濃度を保つようにしているから
まぁ大丈夫なんだよ、そんなに気にしなくてもね。」
「調節してるって足りない分は摂取していない場合はどうなるんですか?」
「いい質問だね。その場合は自分の体から調達するんだ。
骨粗鬆症ってわかるかな?」
「カルシウム不足からの骨密度の減少から、骨が脆くなる病気ですよね。
女性に多くおきるっていう。」
「発病者に女性が多いのは妊娠時には胎児の生成の為に
通常の3倍のカルシウムが必要になることと、言いづらいけど
月のものの際にカルシウムが体内から排出されてしまうのやら
いろいろあるんだけど、話せば長いしデリケートだからおいといて。
最近では性別年齢関係なく起きる生活習慣病みたいなところがあるから
注意しないとね。」
「そこまでは知りませんでした‥‥って!!」
「って?」
つい乗せられてしまったけれど成歩堂さんのペースにひきこまれてる。
ためにはなるけど流されてるよ。
色々‥‥。
「オドロキくんのこともおいといて。
血清カルシウムが足りない場合は骨からカルシウムをとる。
内部の骨髄からだから見た目はそうでなくとも中がすかすかに
なってしまうんだ。
精神に影響を及ぼすときには重度の骨粗鬆症に陥っているはずだから
それどころじゃないだろうね。
ちなみに血液中のカルシウム濃度は8,5~10,2mg/dlくらいが
いいんだ。
オドロキ君の年齢の場合はまだ成長に使われる可能性も少なからずは
あるからカロリーや脂肪分を気にせずに牛乳や乳製品。
カルシウムを体内に吸収しやすくする為にビタミンDと鉄分も
一緒に摂るとベストだね。
割とカルシウムってのは必要な癖して吸収されにくい栄養素なんだ。」
「で‥‥善意にどう繋がるんですか?」
「ああ、それ?忘れてた。」
「忘れてたって、どうでもいいことみたいにっ!!」
「授業中は静かにしなくちゃ、ダメだよ。オドロキくん。」
「先生ぶらないでください。」
「ノリが悪いな。せっかくホワイトボートとか白衣とか買ってきたんだから。」
「どっからそのお金は出てくるんですか。」
「ノリのいいスポンサーがいるんだよ。」
「笑っても誤魔化されませんからね。」
「全部教えちゃったら、授業にならないから。
刺激から筋小胞体の[カルシウムイオン]と[トロポニン]の結合によるトロポミオシンの変異と
ミオシン頭部へのATPの結合。の作用によって起こるものがオドロキくんは使う
ことが多いから、気になってね。」
「はぁ‥そうですか。」
「それとね。このときは先生じゃなくってハカセって呼んでよ。」
「わかりましたよ、ハカセ。」
「敬意が感じられないなぁ。」
尊敬の念の薄さに納得がいかず、首を傾けていたが、
特に気にしたふうもなく。
仕事の時間だと、そのままの格好で出ていくなるほどさんを見送って。
なんだか、どっと疲れた。
3分の1は減ってしまったカルシウムせんべえを食べると
その甘さに牛乳があいそうだと口元がほころぶ。
‥‥でもほっとできない。