彼女の口内へ納められてゆく子供たちはとうぜんのことに
無表情ながら(それはただ私達がわからないだけなのかもしれない)
逃げるがその生まれたての殻を破り外気に触れたばかりの足では
砂を掻いても掻いても蟻地獄のように足を取られて、
彼女の口端から尻尾が覗くだけとなった。
そうして彼女はそのまま川に向かう。
蓋を、いや口を開けばどういうことか
子供たちには傷一つ(目立った外傷がないだけか)なく
ゆっくりとその濁り薄い黄土色となったその川へ身を沈める。
あんなギザギザの杭のような歯で無造作に掴むように
頭を傾け、いれていったので器用なものだと感心した。
外敵に食べられないようにと口内にいれて運ぶ、
母の愛だと言うのだが見ているほうは気が気でないのではないだろうか
私はただたんたんとそうか、と見ていたので気にはならなかった。
小学の頃に育てていたメダカが子を食べていたのがあるからもしれない。
子を話しておかねば食べてしまう親だった。
透明なそのままの親と変わらぬ姿のメダカの幼魚はぱくぱくと
あっけなく食べられていった。
「やっぱりさ。」
「なんですか。」
他の人に不親切なことに主語を抜かして喋る癖のある
客人にしては我が家のようにソファに横たわり占領する
友人、親友という男が言った。
「間違って噛んじゃった場合、食べるのかな。」
「食べるんじゃないですか。」
語尾につけられなかった?[くえっしょん・まーく」が答えである。
実際起こるのだろうが、想像のうちに結果は留まる。
そういうことは考えて楽しめばいいのだ。
娯楽もなにも悲惨であれば悲惨であるほど
想像内に留まるのが望ましい。
ワニの唐揚げっておいしいんだってさ。
と食事にありつこうとする貪欲で憚らない言動に
子供が見る絵本のような絵で描いた光景は吹き飛んでいった。
愛の残刻
(彼による私の台無しな時間)
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