含蓄を含み、その手に持つカップの中身のようにブラックが広がる言い回しは
遠回しでいて舌を刺す酸味のように痛くもあるし、
独特の苦味はそれでこそいつもがぶ飲みしている珈琲のカフェインが入ってしまっている
のではないかと真剣に考えてしまうほど癖になる。
つまるところもしかしたら自分はそれが聞きたくてワザと怒らせてしまうのかもしれない。
――今回は故意じゃない。
無意識の内の故意だったのではないかとわかったが、そのことを考えていて。
聞き逃してしまったのだ、その聞きたかったことを。
「・・・・えーと。Once more Please?」
「クッ・・・・・・・・カウボーイの癖にイヤに丁寧じゃねぇか。」
「親しき仲にも礼儀ありかな、って。」
「I beg your pardon?」
「…Once more Please?」
「もう一度言ってくれって言ったんだぜ。」
「なんだ。だったら言う必要ないだろ。」
「Pleaseがつきゃなんだって“お願い”になるわけじゃねえ。
いい豆を使えば旨い珈琲が煎れられる、そうなのかい?」
インスタントよりは挽き立ての方がいいだろうし、豆で買ってきたら尚更だ。
自分で飲むときはインスタントだし、豆で飲むのは――――
「荘龍はいつもイイ豆選んでるだろ?」
「わからねぇなら、この神乃木ブレンド101号・・・・奢っちゃうぜ。」
替えのテンガロンを忘れて巴ちゃんとすれ違ったのに
ナチュラルにスルーされたことを思い出して
差し出されたカップにテンガロンハットを押さえる。
「な、何号でもおいしいじゃん。どれが何号かわからないけど。」
「――――アンタが煎れたらオレのブレンドでもどうなるかわからない、
そう言うこった。」
「あーなるほど!」
「クッ・・・・本当にわかってるか怪しいもんだぜ。」
珈琲の薫りを味わってから。
ごくり、と珈琲を一口飲む動作は真意を問うときだ。
「つまり―――――――――――
オレが珈琲を飲みたいときは荘龍に頼めばいいんだよな。」
バシャ
テンガロンのツバから垂れる珈琲の向こうには。
やや俯いてわかり辛く顔を赤くした荘龍いて。
たぶん、怒っているのだと思った。
久々に奢られた珈琲はちょっと冷めて。
番号も言わんとすることもよくわからないけれど、苦かった。
でもやっぱりうまい。
「I beg your pardon?」
アフォリズム
(aphorism n.)
前もって消化し易いように調理してある人生の英知。
CAST
テンガロンの検事
赤い弁護士