電気ネズミはアポロジャイズの夢をみるか
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02 つねる
2008/09/10 [Wed]
*ナオカミです
幸せが、強[こわ]い。
そんなときは確認したくなる。
自分は思われているほどに
オプティミストではなくて絶えず不安がっている。
幸が薄い人生でもなく、むしろ他の人より幸せな人生を送ってきて、
隣の男が言うところの「珈琲の苦味が身に染みるにはまだ若い」、
といってもそう違わない歳だ、であるのにそう思うのは、
どんなことがあるかわからない。
未知への恐怖だとも言い換えれば言えるのだ。
(その分、幸せなんだけどな。)
知らない、と言うも幸せなことで浅墓である
と悟りつつ目の前の幸福を感受する。
ほんとうに浅墓であるのならばそんなことすら考えずに、
幸せであるのに。
そんなところだけ不器用だ、下手に賢いだけで
やり過ごし方を知らずにいる。
こればかりは経験で年を経るごとに差異は、
特に今は右横にいる男との開きっぷりには
ちょっと泣ける、あれ、少しなりとも積み重なって得ることが出来るが
急くように自分はそれを求めているのだ。
――――そのような姿勢自体が、
経験の無さと若さの証明に他ならないのだが、
人の欲求は実現可能よりも実現が不可能なほど
その可能性に反比例して高まるもので
あって、事柄が事柄だけに際限がない。
始終不安がるとは四六時中求めているとも、言える。
たとえば、隣に居られることを噛み締めたときに。
たとえば、隣を歩けることを見出すときに。
たとえば、隣で息をすることで満たされるときに。
いっしょに居れば常にあることが
こんなにも強[こわ]く、感じるなんて。
なんて幸せな人間なのだろうとも思う。
これで、茫洋と胸に根を張る不安を取り除くすべを見つければ、
(今度は、怖いか。)
その次は常用句で常套句の、幸せの怖さが待っている。
二段構えか・・・・と熟考しなおすと、なんとも果てがないように見えた。
幸せが、怖いなんていつのドラマだろうか?
杞憂に過ぎないと思うもすぐまたそれが打ち消されてしまうのは、
職業柄だろうか。
幸せに限らず何事も築くためには長い時間を要するも、
決壊するのは一瞬あれば十分なのだから。
そう、不幸を除いては――――――。
自分は唯、確かに自分は幸せであることが掴みたかったのだ。
「で‥‥なんでオレの尻をつねることに繋がるんだ、テンガロン。
アンタのオツムはテキサスのサボテンかい?」
「たぶん、そのココロは水が溜まってる!!」
「正解者に珈琲一杯奢っちゃうぜ。」
「熱ッ‥‥ちょ、ちょっとはオレの話に耳を傾けてみようと思わない?」
「事情聴取は検察側のシゴトだろ?」
「分け隔てなくいろんな人の話を聞くことが
人格形成をより豊かにするものだろ?」
「‥‥オレもオトコだ、懐は狭くねえ。聞いてやるぜ。」
懐が広かったら、いきなり珈琲を
ぶっかけないだろ‥‥と胸中で愚痴りつつ
珈琲で濡れて落ちてきた前髪越しに自己弁護をする。
(毎回のことだけとかっこ悪いな、オレって荘龍の前だと。)
「オマエといるとさ、ヤロー同士なのにユメみたいに幸せに感じるンだよね。」
なんでか、よくわからないけど。
ほっぺたじゃ珈琲飲んでたし。
おかしいなんて、重々似わかってるさ。
垂れて零れた珈琲が口中に苦味をポツリポツリと生じさせては消えてゆく。
気まずい雰囲気に、忘れてよ、と開きかけた頬を思いっきり抓まれる。
「そういうコトバは最近オレのとこまで電話を掛けてきやがる、
アンタの健気なコネコちゃんに言ってやりな!! 」
タイミングを見計らったようにけたましく鳴った電話の液晶ディスプレイには
ご無沙汰の見慣れた番号が並ぶ。
わかりづらく染められた頬は自分の頬まではないにしろ赤くなっていて。
(ごめんね、オレのコネコちゃん。)
ピッ
‥‥‥‥を削除しました
爪を立てられて抓られた頬は痕が残って痛かった。
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ぼこり愛
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