死を待つだけと言うのなら、確かにここは家だろう。
彼の為にしつらえられた、この部屋はまるで
最上階《スウィートルーム》。
部屋の幅一杯の特注のサイズに造られた
木目が美しいマカボニーの本棚には
名匠の手によるバイオリンとアンティークの
ティーセット。
曲線美の豊かな背もたれがゆったりとした
椅子は紫に染められた柔らかな羽毛が
覆い、その上に載せられた小さなクッションは
シンプルに白、ではなく豪奢な金の刺繍。
錦の橙。
実用には程遠い小さい丸机は凝った細工も
掛けられるカバーもなく質素なものだが
その桁は推して知るべし。
穏やかな色合いのチェストには、
細身の花瓶に赤い薔薇が二輪。
この部屋には背の届かぬ鉄格子越しに
差し込む光さえ、雰囲気を阻害せず
引き立てる。
また壁はコンクリートではなくレンガを重ねた模様と
なっているので、まるで洒落た書斎だ。
これで
『牙琉 霧人は今、《作業》に参加しています。』
とはまったくおかしくて仕方ない。
「まぁ、ぼくのせいなんだけどね。」
13号と言う数字に相応しい、階段を昇るその日まで。
きみはまどろめるのだろうか。
「じゃあね。」
きみの、死を待つ人の家《カリーガード》は冷え冷えと
その時を見守ってくれるよ。
牙琉。
家 (house n,)
人間、イエネズミ、ハツカネズミ、油虫、
ゴキブリ、ハエ、蚊、ノミ、バチルス、細菌を
住まわせるために作られた、中が虚ろな建物。
CAST
青いピアニスト