「顔がちょっと赤かったみたいですけど、大丈夫ですか?」
褐色の肌であるから変化をよく見ようと近づけられた顔。
寝るときは男に戻った時のことを考慮して下着がつけられて
いない胸が上まで閉めていても広く開いた襟から覗く。
血が付いたらしく使えなってしまった白いネクタイを締めて
貰った時のことを思い出さずにはいられない。
前からそのまま結ぼうとして、出来るがやる側となると
勝手が違うのかと、自分を椅子に座らせて後ろから絞めようとする。
絞め易いように引き寄せられ、当てられたのはふくよなか胸。
シャツ越しにでもその感触が生々しく伝わって・・・・
しかもつけていないのだ。
本人は気づいていないようだが背中に擦れて硬くなってきた
双丘の二つの頂が当たって、気が気ではない。
首筋に触れる意外に柔らかい髪の毛からは自分と同じシャンプー。
薫りは女が使うような甘い香りを放つものでなく安物の薫りで
あるが同じであるというだけで酷く興奮してしまう。
上手くいかないらしく吐く息も歯磨きのミントだと言うのに酩酊を感じた。
(・・・・・・・・オレを試してるのかい、コネコちゃん。)
余裕を持とうと胸の内に呟くも、無論試しているつもりのない
コネコは腰までピタリとつけてネクタイをいじる。
視界に入る白く細く、長い。
女らしくそれでいてきちんと爪が切られた指が己の胸元を探るように
蠢く。
時折触れる指先が熱が昇る咽元を掠る。
逆に指と後頭部だけしか見えないその姿に感覚が鋭敏となっていく。
もう少しで終わるのか激しくなった動きに押し付けられる感触は
下腹部に押し上げられるような衝動を走らせる。
「終わりましたけど、ゴドーさん。」
そっけなく、放された身体に数秒心も放される。
ネクタイの出来をみようと前に来た顔には、会心の出来なのか
無邪気な笑顔を浮かべていた。
「ああ、上出来だぜ。コネコちゃん。」
よほど嬉しかったのか上ずってしまった声も気にせずに
台所に向かう姿にエプロン位つけたらどうだい?
と言って髭を整えていなかったことを宣言するように
表意して我ながら説明口調に飽きれる。
洗面所から続くバスルームのシャワーコックを捻る。
壁が薄く漏れそうになるシャワーの音を調節して
治めようと水流を当て、熱を冷ましながら吐き出した。
年甲斐も無さに気が沈む。
不審に思われるといけないと口実であった髭を整えて
気分を落ち着けよう。
洗面所には細身の一枚刃の安っぽいカミソリ。
使われた形跡もないカバーが掛かったままのそれを
残念に思い、その思考にまた飽きれて顎に当て、手早く
終えようとしたのだ。
「体調悪いなら無理しないで下さいよ・・・・アレ、ちょっと濡れてますね。
シャワーでも浴びたんですか?」
「熱い珈琲を氷を入れたグラスに注ぐとどうなるのか・・・・アンタにわかるかい?」
「アイスティー、違うか。寝汗ですか。」
「オレも人間だぜ。まるほどう。」
「わかってます。」
苦笑をしながら注がれた朝の珈琲と白身の部分に
潜んだ殻と「オトコってヤツでもあるんだぜ。」と言う
台詞を呑み込む。
今朝の珈琲はいつもより熱く深く苦い、それでいて天国のような
甘い薫りを湛えていた。
PR